絵で見る脳と神経の病気 代表的な病気をわかりやすくご説明します

神経膠腫(グリオーマ)

グリオーマに対しては手術、放射線療法(ほうしゃせんりょうほう)、化学療法(かがくりょうほう)を組み合わせた治療が行われます。なかでも手術は腫瘍の種類を決定するだけでなく、できるだけ腫瘍を取り去るという意味でもっとも効果があり、すべての治療の基本となります。しかしグリオーマは、正常脳との境界がわかりにくい事から、ほとんどの場合、腫瘍すべてを取り去ることはできません(図)。ただし段階の進んだ腫瘍では、腫瘍の取れた量と生存期間は強く関係しており、できるだけ多く取り去ることが必要です。

東海大学病院では、世界でも数少ない手術中にMRIを用いる脳腫瘍の手術を行っており、確実かつ安全な手術を行えます。また、手術中に画像ナビゲーションシステムや腫瘍の蛍光標識(腫瘍の生体染色)も導入して、逐次腫瘍取り去る手術を行っています。しかし、単に「とにかく腫瘍をできるだけ取り去ればよい」というのではなく、本来の神経機能を傷つけてまで腫瘍を取り去る事はできません。すなわち、東海大学病院のグリオーマ手術では、「重い神経障害を遺すことなくなるべく多くの腫瘍を取り去る」という方針をとっています。このため手術中に脳波検査などを用いて、場合によっては、患者さんと手術中に会話しながら、言葉の機能を確認しながら手術する方法も行っています。東海大学医学部付属病院では、手術中にMRIを行える手術法を導入してから、結果として、腫瘍を取り去った割合は約10%向上しており、それにともなって生存期間も延長しています。

残念ながら手術によりできる限り腫瘍を取り去っても、このグリオーマはどこかに隠れて残存していることが多いです。その残った腫瘍に対して行われているのが、放射線療法と化学療法です。最近の標準的治療では、段階の進んだグリオーマには6週間(1日1回・週5回の放射線照射)の放射線療法に、テモダールやテモゾロミドという、腫瘍細胞の細胞分裂阻害薬である飲み薬の抗がん剤(点滴製剤もあり)を組み合わせて治療を行っています。放射線照射は、少し広い範囲にかけた上で、特に病状の悪い部分に範囲に絞ってかける方法(拡大局所照射)(図)を行うことになります。状況に応じて、症状改善や進行および再発を遅らせるために血管新生阻害薬(アバスチン)を使用致します。また、グリオーマの中でも最悪の顔つきである膠芽腫(こうがしゅ)と診断された場合には在宅交流電場治療システム(頭皮に貼った電極により電場を作り、腫瘍細胞分裂を阻害)といった低侵襲の新規治療も導入されており、患者様の病状経過に寄与しております。

しかし、平均的には生存期間が短い腫瘍であるがゆえに、患者さんの生活の質を重視したバランスの良い、個々の患者さんに合った最適な治療を心がけています。

2017年リニューアルした術中MRIシステム:
より高性能の術中MRIを実現。

術中蛍光診断:
ピンク色に発色しているところが残存病変です。

メチオニンペットを用いた術中ナビゲーションシステム:
活動性病変の可視化。

術中トラクトグラフィー:
温存すべき神経線維の可視化。

抗がん剤ウェファー(ギリアデル):
局所再発を防ぐ目的で、摘出腔に添付

交流電場治療システム(オプチューン®):
状態により治療検討いたします。

術前MRI
脳浮腫強く、中心構造の変異(脳ヘルニア)を認め、病変の中心には血行が豊富な悪性腫瘍を疑わせる病変を認める。

術中MRI1回目
脳浮腫による開頭後の脳の膨隆による術中ナビゲーション画像との誤差の補正のための減圧後に術中MRI施行。

術中MRI2回目
全摘出確認。術中に脳梗塞や出血有無の確認も可能。

術後1日目MRI
術後出血や脳梗塞も認めず、全摘出成されており、後遺症なく経過安定。

予後が最も悪い膠芽腫(こうがしゅ)は、造影MRIで細胞分裂が盛んなことを反映して発達した腫瘍血管が結果として、Ring状の造影効果を示します。造影領域から6cm離れた場所でも、腫瘍細胞が1/1000個の確率で存在するといわれています。

Wilson CB. Glioblastoma; the past, the present, and the future.
Clin Neurosurg 1992; 38: 32-48. 2

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