神経膠腫の摘出術および集学的治療

担当:西山 淳(外来担当日 水曜)

脳内に発生する腫瘍の代表である神経膠腫(グリオーマ)は、浸潤性に発育することと、腫瘍の存在部位の機能により、完全に切除することが困難な腫瘍です。また、悪性度も様々なため、個々の症例で手術を含めた適切な治療方針の決定が重要です。最近は、手術治療、放射線治療、化学療法だけでなく、新たな治療法も導入されています。当院では、術中MRIを使用し可能な限り腫瘍を切除し転帰改善につなげることを中心に、患者さんの生活などの個人的事情も考え、最善の治療を行っています。

脳腫瘍の分類

脳腫瘍には、脳や周囲の組織から発生する原発性脳腫瘍と、他の臓器で発生した癌が転移する転移性脳腫瘍に大別され、原発性脳腫瘍はさらに良性と悪性に分類されます。本邦での、原発性脳腫瘍の発生頻度は年間2万人程度で、半分が悪性脳腫瘍です。良性腫瘍は髄膜や神経、下垂体など脳の外側から発生し、悪性脳腫瘍は多くが脳そのものから発生します。脳腫瘍全国調査(Report of Brain Tumor Registry of Japan(2001-2004), 13 Edition)では、我が国の脳腫瘍で最多なのが、神経膠腫(Glioma グリオーマ)で25.6%、続いて髄膜腫24.4%、下垂体腺腫21.3%、神経鞘腫10.1%となっており、脳腫瘍全体の1/4以上がいわば脳のがん(悪性脳腫瘍)である神経膠腫となります。

脳腫瘍は、頭痛、麻痺、失語、自発性低下、痙攣などで発症します。MRIの普及などで偶然見つかるごく初期の腫瘍は、深部白質病変と区別がつきにくいこともあり、その場合は定期的観察が必要となります。

神経膠腫の特徴

神経膠腫治療の際に考慮する腫瘍の特徴は、以下の3つがあげられます。

1. 組織学的に悪性度が異なる腫瘍が含まれる

低悪性のものはゆっくり増大し、途中で高悪性に変わることもあります。高悪性のものは急速に増大し、症状も悪化します。もっとも予後の悪いものに膠芽腫があります。

2. 正常な組織と腫瘍の境界がはっきりしない(浸潤性)

境界不鮮明なため、完全に切除することが困難になります。

3. 腫瘍の存在部位と脳の機能局在の関係

腫瘍が、手足の運動や感覚、言語、視野の中枢などにある場合は、切除による障害を避けるために腫瘍の一部を残すことになります。

膠芽腫のMRI

予後が最も悪い膠芽腫は、造影MRIでRing状の造影効果を示します。造影領域から6cm離れた場所でも、腫瘍細胞が1/1000個の確率で存在するといわれています。

神経膠腫の治療

術前に予測される組織型、浸潤の程度、脳機能の局在を画像で評価し、年齢を考慮した上で、「最大限摘出を行い、最小限の脳機能障害にとどめる」ことを目標に手術を行います。当院では術中MRI、術中ナビゲーションシステム、術中電気生理学的検査、術中蛍光診断を行いながら摘出します。また、術中病理診断の結果に応じて、抗がん剤を摘出腔に留置します。手術で肉眼的に取りきれても、浸潤部位に腫瘍細胞は残存します。近年では組織の遺伝子診断により、手術後の追加治療が選択される様になりました。この遺伝子診断の結果により、化学療法と放射線治療を含む集学的治療を行います。また、交流電場治療システム(頭皮に貼った電極により電場を作り、腫瘍細胞分裂を阻害)といった治療法も登場しています。

2017年リニューアルした術中MRIシステム:
より高性能の術中MRIを実現。

術中蛍光診断:
ピンク色に発色しているところが残存病変です。

メチオニンペットを用いた術中ナビゲーションシステム:
活動性病変の可視化。

術中トラクトグラフィー:
温存すべき神経線維の可視化。

抗がん剤ウェファー(ギリアデル):
局所再発を防ぐ目的で、摘出腔に添付

交流電場治療システム(オプチューン®):
状態により治療検討いたします。

ご紹介のお願い

東海大学では、脳腫瘍の患者さんへの説明は十分な時間をかけ、また患者さんが治療について考える時間をとれるようにしています。患者さんの生活や仕事、家族の介護なども考え、患者さんごとに複数の専門家が参加する検討会で最善の治療方針を決定しています。

どのような脳腫瘍でもご紹介いただければ、患者さんと十分に相談し、最善の治療を行なっていきます。

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