適切な治療で完治が得られる三叉神経痛と顔面痙攣

担当:野中 洋一(外来担当日 木曜)

インターネットの普及により、病気について簡単に情報を得ることができる時代になりました。しかし、必ずしも正しい情報を得られるわけではありません。情報が氾濫する中、いつまでも症状に苦しんだり、専門医にたどり着くまでに数年〜十数年を要する患者さんを目にすることもあります。このページでは、脳神経外科が取り組む、『三叉神経痛』と『片側顔面痙攣』の治療について解説します。

突然の激痛

頬に少し触れた際、食事や会話をしている時、または歯磨きや髭剃りの際に突然顔面に激痛が生じるというのが典型的な三叉神経痛の症状です。患者さんは、痛みのきっかけや始まった時間が説明できます。

痛みは非常に強く、「電気が走るような」とか「稲妻が顔を突き抜ける感じ」等と表現されるような激しい痛みであります。 これらの痛みを歯の痛み(虫歯)と勘違いされ歯科を受診し、歯や歯肉に異常がないにもかかわらず抜歯をされたというエピソードを、患者さんから伺ったことがあります。

体重が減り、気分も滅入る

痛みは突然やってくる激痛のため、咀嚼で痛みが誘発されるタイプでは、食事をすること自体が恐怖になります。その結果体重がみるみるうちに減っていく方もいらっしゃいます。 また痛みへのストレスから気分が滅入り、抑うつ状態となる方も、非常に稀ですがいらっしゃいます。それほど三叉神経痛は、患者さんにとってつらいものです。

人と会うことを避け、引きこもる

一方、片側顔面痙攣は、自分の意思と関係なく、突然片方の顔面がピクつく疾患です。初期の頃は目の周りのみがピクつき、治療の必要性がない「眼瞼痙攣」と区別がつきません。しかし、顔面痙攣では徐々にその範囲が拡がり、口元が見えない糸で引っ張られているような感じになり、さらに強くなると目が開いている時間より閉じている時間の方が長くなり、車の運転もできなくなるといったこともよく聞きます。そのため、人目を気にするようになり、だんだん人との接触をさけるようになります。メガネやマスクで目立たないように努力をする方、コールセンター等、人との対面をせずにすむ業種へ転職される方、退職される方までいます。

生命に関わる疾患ではない

三叉神経痛、顔面痙攣のいずれも、放っておいても疾患自体で命を落とすことはありません。ただ三叉神経痛はとにかく痛くて耐えられない、また顔面痙攣は見た目とピクつきによるストレスが耐えられないことで、日常生活に支障をきたすようになります。

小さな開頭で侵襲の少ない手術

手術を行うと、三叉神経痛、顔面痙攣も高い確率で痛みから開放されます。いずれも頭蓋内の血管(ほとんどは1本の細い動脈ですが、まれに2,3本であったり、静脈であったりということもあります)が、三叉神経や顔面神経が脳幹から分岐した直後の数mmの部分に接触することで症状を引き起こします。手術は全身麻酔下に顕微鏡を用いて、神経に接触している血管を動かして、神経から離すという作業を行います。執刀時間は2時間前後です。また皮膚切開は患側耳介の後ろに5cm程度であり、髪の毛に隠れます。また開頭範囲は大きいもので500円硬貨、小さいもので100円硬貨くらいのいわゆる「鍵穴手術」と呼ばれるものです。入院期間は通常1週間前後ですが、術後の状態が良ければ入院期間は短縮できます。

治療の選択、高齢者の治療

保存的治療として、三叉神経痛は内服加療や、神経ブロック療法を行うこともあります。顔面痙攣に対しては手術は希望しないが一時的に痙攣を止めたいという方は、ボツリヌス毒素療法という選択肢があります。これはA型ボツリヌス毒素製剤(商品名:ボトックス)を痙攣の起きている顔面筋に数カ所に分けて注射し、顔面筋を麻痺させることで効果を期待します。有効率は92%といわれ、我が国では2000年に保険適応となりました。効果持続期間は3ヶ月前後で、定期的な注射による治療を行います。開頭術を行う場合、顔面痙攣は65歳以下で健康な方を適応とします。三叉神経痛は80歳代でも条件が許せば手術を行います。

まずは専門医へご紹介を

三叉神経痛という確定診断がつくまでに、歯科医院で診察を受ける患者さんも多くおられます。最近ではこの疾患についての理解も深まり、歯科医院から脳神経外科へご紹介いただく症例も多くなりました。三叉神経痛には症状として特徴的な点がいくつかあり、神経系の専門医であればすぐに診断がつきます。三叉神経痛や顔面痙攣には色々な治療法があります。原因を確実に除去できる方法は手術となります。内服やボトックス治療に抵抗性の患者さんがおられましたら、お気軽にご相談ください。

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