Neurospine—脳神経外科での脊椎手術

担当:張 漢秀(外来担当日 木曜)

Neurospineという言葉をご存知でしょうか?あまり耳慣れない言葉だと思いますが 、これは、神経を中心に考える脊椎手術というコンセプトを表すために作られた言葉です。脳神経外科での脊椎手術の理念を表しているとも言えます。英語をむやみに使うのは本意ではありませんが、今の所、この概念を表すよい日本語がなく、それができるまでは、このNeurospineという言葉を使ってみたいと思います。本稿では、このNeurospineという言葉の表すことについて、説明してみたいと思います。

最近の一例

Neurospineについてご理解いただくために、まず、最近経験した一例をご紹介したいと思います。患者さんは77歳の女性で、10年来の腰痛に苦しんでおられました。症状の重い日は、5分も立っていられないという状態で、日常生活に大きな障害がありました。複数ヶ所の医療機関を受診しましたが、いずれも診断がつかず、当科外来を受診されました。

当科で考案したthin-slice 3D MRIを行ってみますと、L5/S1の椎間孔部でのL5神経根の圧迫と診断することができました。同部の顕微鏡的除圧術を行うと、10年間苦しんだ腰痛がうそのように消失し、患者さんは1週間足らずで退院して、通常の生活に戻られました。患者さんが大変喜ばれたことは、いうまでもありません。と同時に、何故10年間も診断がつかなかったのか、と嘆いておられました。

図1.Thin-slice 3D MRIでの左L5神経根圧迫の診断。1mmの連続切片で観察すると、矢頭部で左L5神経根が圧迫されているのがわかる。

Neurospineの考え方

このように理想的に良くなる患者さんばかりではもちろんありませんが、この症例がNeurospineの考え方をよく表していると思います。即ち、症状を出している病変の部位を正確に診断し、その病変部位を、低侵襲な手術でpin-pointに除圧して治療するというものです(図2)。このような方針で治療を行えば、脊椎の安定性を損なわずに、患者の症状を取ることができますので、むやみに金属を入れて背骨を固定したりする必要はなく、高齢者でも手術でき、入院期間も短く、早期に社会復帰することができます。

図2.術中写真。低侵襲なアプローチで、左L5神経根(矢頭)がピンポイントに除圧されている

以下では、Neurospineの実践に必要な道具、手術の方法、治療成績について述べたいと思います。

Thin-slice 3D MRI

診断には、脊椎のMRIが最も重要なことは言うまでもありませんが、ルーチンのMRI検査だけでは、多くの疾患を見逃してしまう可能性があります。重要なのは、骨ではなく、神経が痛みを発するのであり、痛みの原因となっている神経を特定する必要があるということです。そのためには、脊椎から出る一本一本の神経を、その全走行に渡ってMRIで追いかけて観察しなければなりません。それを可能にするのが、thin-slice 3D MRIです。

即ち、通常のMRIに加えて、0.6-1.0mmの厚さの断面を連続撮影し、それを、水平断、前額断、矢状断の3方向での再構成画像を作成します。モニターの画面で、この3方向の画像を観察すれば、一本一本の神経を全走行に渡って追いかけていくことができます。こうすることによって、ルーチンのMRIでは診断できない、微妙な神経の圧迫所見も、正確に診断することができます(図1)。

ページの先頭へ