手のしびれの鑑別と末梢神経絞扼性障害

担当:張 漢秀(外来担当日 木曜)

「手のしびれ」は、臨床医が日常的に遭遇する症状ですが、その原因には多くの疾患があり、それらを的確に診断することは医師としての腕の見せどころでもあります。その中で多いものは、頚椎症ですが、まぎらわしい疾患として、手根管症候群や、肘部管症候群などの末梢神経絞扼障害があります。これらの鑑別にはいくつかのコツがあります。手根管症候群と肘部管症候群それぞれについて、診断のポイントと、治療についてお話ししたいと思います。

1. 手根管症候群

上肢の末梢神経絞扼障害で最も多い疾患は、手根管症候群です。正中神経が、手首の靭帯のところで圧迫されて、手掌の正中神経領域のしびれが起きますが、この症状は、頚椎症の症状とよく似ています。診断のポイントとしては、母指球の萎縮を認めた場合、短母指外転筋の筋力を調べます。しかし、やっかいなのは、頚椎症でも母指球の萎縮は起こりうることです。その場合、知覚低下の検査が役に立ちます。正中神経と尺骨神経の手掌での知覚支配領域は、第4指に境界線があります。ですので第4指の内側に痛覚低下があるのに、第4指の外側にはない、という場合は、頚椎症の可能性は低く、手根管症候群が疑われます。最終的には、筋電図で遠位潜時の延長を確認します。

2. 肘部管症候群

肘部管症候群は、肘の部分で尺骨神経が圧迫されて起きる病気です。手の尺側のしびれが特徴で、進行すると小指球の萎縮や骨間筋の萎縮が起こりますが、これらは頚椎症でも起きうる病態です。結局のところ、肘の部分を叩いて尺骨神経に沿ったしびれが誘発されるTinel徴候、上記皮膚の痛覚低下の領域、頚椎MRIの所見等を総合的に判断することになりますが、最終的には筋電図の所見が診断の決め手になると思います。

3. 外科的治療

軽症の場合、多くは安静と保存的治療で軽快しますが、重症で日常生活が障害される場合は、手術が必要になります。本稿では、脳神経外科で行っている顕微鏡手術についてご説明します。

手根管症候群の顕微鏡手術

手根管症候群に対しては、内視鏡手術も行われますが、顕微鏡手術も侵襲的にはそれほど大きな違いはなく、神経を直視下に見ながら除圧できるので、安全性ではより優れていると思われます。

手術は局所麻酔で行います。手掌の基部に2cmの切開を置き(図1)、顕微鏡下に、正中神経に沿って、横手根靭帯を遠位側から手首方向に切断していきます。常に神経を確認しながら手術ができるので、極めて安全です。術後の傷も、ほとんど目立ちません。重症化する前に手術を行えば、予後は極めて良好です。

肘部管症候群の顕微鏡手術

肘部管症候群に対しても、顕微鏡手術が有効です。

通常の手術であれば、大きな皮膚切開が必要ですが、顕微鏡手術であれば、2cm程の皮膚切開で充分な神経減圧を得ることができます。図2のように、肘の部分に小さな切開を置き、顕微鏡を使って尺骨神経を同定したら、この神経に沿って、近位側と遠位側をそれぞれ顕微鏡で覗き込むようにして、靭帯を切断していきます(図3)。この方法を使えば、通常の皮膚切開で問題になる、尺側前腕皮神経の損傷による前腕皮膚のしびれの合併症を防ぐことができます。

最後に

脳神経外科では、頚椎症の手術も末梢神経の手術も扱っています。もし、診断に困るような症例がありましたら、筋電図検査やMRIで鑑別診断を行い、治療することができますので、ご紹介いただければ幸いです。

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