未破裂脳動脈瘤と手術適応の考え方

担当:反町 隆俊(外来担当日 月曜)

MRIや脳ドックの普及により、未破裂脳動脈瘤がみつかることが多くなっています。脳動脈瘤は破裂してクモ膜下出血になると重篤な障害が残る可能性が高い疾患ですが、多くの脳動脈瘤の破裂リスクは高くありません。手術適応は手術リスクも考慮し、個々の症例で慎重に検討する必要が有ります。手術を的確に行うことは勿論ですが、不要な手術を避けることも重要です。

手術が傷害にならないために

手術は患者さんにメリットがなければ体を傷つけるだけの傷害になることを、外科医は心に留める必要があります。未破裂脳動脈瘤では、手術を行うリスクが保存的にみるリスクを上回る場合は、手術は患者さんにとってデメリットとなります。東海大学では、開頭と血管内手術の専門家集団による検討会で、個々の患者さんごとにリスク評価を行い、手術適応を決定しています。また、手術リスクを減らすために、疾患と手術についての知識・経験の獲得につとめ、オフザジョブトレーニングを励行しています。

未破裂脳動脈瘤の保有率

日本人の未破裂脳動脈瘤の頻度は、2‐5%程度と報告されています。高齢になるほど保有率が高くなり80歳では10%になります。女性は男性の約2倍です。動脈瘤の大きさは、4mm以下の動脈瘤が全体の3/4以上を占め、 6mm以下では90%になります。

破裂率と破裂した場合のリスク

日本人の動脈瘤破裂率は諸外国に比べ高いことが知られています。日本脳神経外科学会は日本人の6697個の動脈瘤を前向きに調べ、UCAS‐Japanで動脈瘤の場所、大きさ別に破裂率を報告しています(NEJM2012)。動脈瘤は5‐7mmを超えると、年間に1%くらい破裂します。

  3-4mm 5-6mm 7-9mm 10-24mm
中大脳動脈 0.23% 0.31% 1.56% 4.11%
前交通動脈 0.9% 0.75% 1.97% 5.24%
内頚動脈 0.14% 0% 1.19% 1.07%
内頚動脈-
後交通動脈
0.41% 1% 3.19% 6.12%
脳底動脈 0.23% 0.46% 0.97% 6.94%

破裂しクモ膜下出血になると、約1/3が死亡、1/3が障害が残り、1/3が元に戻ります。

ガイドラインから

2015年の脳卒中治療ガイドラインでは、手術適応は以下の通りです。

大きさ5‐7mm以上の脳動脈瘤、ただし5mm未満でも1)症候性、2)前交通動脈、内頸動脈ー後交通動脈分岐部、3)形状が不整、などの場合、慎重な検討が勧められる。

2009年のガイドラインでは、「10‐15年以上の余命がある場合に治療を検討することが推奨される」とありましたが、2015年は余命の条件が消えています。また、治療はより慎重に検討する、というニュアンスが強くなりました。さらに、手術の有無にかかわらず自然歴を示し、文書でインフォームドコンセントを得ることが勧められています。

手術適応の考え方

手術を行うと、破裂する可能性は、ほとんど無くなります。手術をしない場合に破裂し障害が残る可能性と、手術を行い障害がでる可能性を天秤にかけることが、適応決定に重要です。また、一般的に高齢者では開頭より血管内手術の方が術後経過良好になるため、高齢者では血管内手術が比較的安全に行えるかの評価も、適応決定の因子になります。

小さな動脈瘤でも治療する場合

5mm未満の動脈瘤でも、follow‐upで増大した場合は破裂リスクが上昇するため、手術をすすめることがあります。特に増大の3ヶ月以内はリスクが高くなり、1年を超えると元のリスクに戻るという報告もあります。

ガイドラインにある通り、5mm未満でも、破裂しやすい前交通動脈や内頸動脈ー後交通動脈分岐部で、細長い瘤(ASPECT比が高い)、不整形、小さな膨らみ(ブレブ)がある場合などは、手術を検討することがあります。

ご紹介のお願い

東海大学では、未破裂脳動脈瘤の患者さんごとに、複数の専門家が参加する検討会で治療適応を決定しています。また、患者さんへの説明に十分な時間をかけ、患者さんが考える時間をとれるようにして手術を決定します。

手術を考える場合は、まず1泊2日のカテーテルによる脳血管造影を行います。その後、外来で説明し、麻酔科を受診、後日に手術となります。

小さな動脈瘤でもご遠慮なくご紹介いただければ、最善と考えられる治療を提示いたします。

開頭、血管内手術とも、十分な経験と知識のある専門家集団の会議で手術適応を検討しています。結果となる手術成績も良好です。しかし、エビデンスに基づいた治療を重視しているため、特に小さな動脈瘤や高齢者は、他院で手術を勧められても、検討の結果で手術をお勧めしないこともありますので、ご理解をお願いいたします。

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