脳血管壁イメージMRI: 脳血管障害診断の最新ツール

担当:反町 隆俊(外来担当日 月曜)

MRIの血管壁イメージは脳血管障害診断の新しいツールとなっています。従来のMRAやCT血管造影が血管内腔の形状しか描出できないのに比べ、この方法は血管壁の状態を描出できるようになりました。今回は、当院で行っている血管壁イメージの使用について、全米神経放射線学会のエキスパートコンセンサス(American Journal of Neuroradiology38:218-229.2017)も参照にして、紹介します。

脳血管壁イメージMRIとは

高分解能MRIで、血流や髄液の信号を抑制し、頭蓋内の脳血管壁を描出する方法です。可変フリップ角を用いた3Dでの高速SE法が主流になっており、VISTA(フィリップス)、SPACE(シーメンス)、Cube(GE)、MPV(東芝)などメーカーにより異なった名称がついています。1.5テスラMRIでも可能ですが、3テスラMRIの方が診断能力は高いようです。当院は主に3TのVISTAを用いています。

脳動脈解離の診断

脳動脈解離は椎骨動脈と内頸動脈が好発部位で、3層の血管壁(内膜、中膜、外膜)が内側から外側に向けて裂ける疾患です。解離が壁内にとどまる場合は、頭痛で発症し、壁から出る穿通枝虚血や血栓形成による脳梗塞が出現することもあります。外膜まで解離が広がると、クモ膜下出血になります。

従来は、MRAやCT血管造影、脳血管造影で、血管内腔が狭窄したり拡張するような不整形になることで診断がついていました(pear and string signが代表的所見です)。しかし、血管壁の不整は、動脈硬化など他の疾患との区別困難なこともあり、内腔不整がみられない場合は診断がつきません。

血管壁イメージでは、症例により解離した壁が見えることがあります。また、壁内に出血がある場合は時期によりT1強調で高信号になるため、他の疾患と区別可能になり、内腔の形状に異常がなくても診断可能になります。壁内出血は発症直後は高信号にみえませんが、1週間経過すると80%以上の症例で高信号にみえます。

30台男性、2週間前から右後頭部痛があり受診。MRAで右椎骨動脈解離と診断。血管壁イメージで壁在血栓を確認した。

クモ膜下出血で破裂瘤の診断(多発瘤の場合)

クモ膜下出血で動脈瘤が複数ある場合は、動脈瘤の大きさや形状、出血の分布で破裂した動脈瘤が推測できることがありますが、破裂瘤が特定できない場合もあります。血管壁イメージのT1強調画像で動脈瘤壁が造影される場合は、80%以上の確率で破裂瘤であったという報告があります。ただし、未破裂瘤でも瘤壁が造影されることもある(偽陽性)ため、破裂瘤の決定は他の所見も含めて総合的に判断する必要があるようです。

未破裂脳動脈瘤の破裂可能性予測

未破裂脳動脈瘤でも血管壁が造影されることがあります。まとまった報告はまだありませんが、今後は破裂可能性の予測に使用できるかもしれません。動脈瘤壁の炎症は破裂や瘤増大の重要な因子であることが知られていますが、T1強調血管壁イメージでの瘤壁造影所見は、壁の炎症を反映している可能性があります。

66歳女性、左内頸動脈瘤があり脳血管造影を行い待機手術予定であった。2ヶ月後MRAで瘤が増大、血管壁イメージで瘤壁が造影された。翌日コイル塞栓術を施行した。

RCVD(可逆性脳血管攣縮症候群)、脳血管炎、もやもや病の診断

RCVDは突然の頭痛の原因として注目されている疾患です。脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血の原因になることもあり、血管の狭窄が特徴的です。通常の画像検査上はRCVDも血管炎も区別困難なことがありますが、RCVDは可逆性であるため、進行性に悪化し治療も異なる血管炎との鑑別は重要です。血管壁イメージでは両者とも血管壁の肥厚がみられますが、造影を行うとRCVDでは血管壁は造影されないことが多く、血管炎では造影されます。

内頸動脈や中大脳動脈狭窄では、もやもや病と動脈硬化の鑑別が手術適応決定に重要です。もやもや病では壁肥厚が少なく、壁肥厚は全周性で、造影されることも少ないとされていますが、全周性に壁が造影されるという報告もあります。

脳動脈硬化症と脳梗塞の診断

動脈硬化は偏心性の血管壁肥厚としてみえます。症候性の場合には無症候性に比べ、プラークがより肥厚している、表面がより不整、T1強調で造影される、などがみられやすいという報告があります。

診断時の注意点

疾患ごとの血管壁イメージの特徴は、まだコンセンサスがないものも少なくありません。診断に際しては、臨床所見や他の画像検査も参考にして総合的に判断することが重要です。

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