脳梗塞予防のバイパス術 -最近の状況-

担当:反町 隆俊(外来担当日 月曜)

脳梗塞予防のバイパス手術は、内頸動脈・中大脳動脈などの動脈硬化による主幹動脈閉塞や、もやもや病に対し行います。動脈硬化性閉塞では手術適応の厳守が重要です。一方、もやもや病は無症状でも症例により手術を行います。東海大学ではご紹介いただいた患者さんは、神経内科と合同で患者さん毎に最善の治療方法を検討しています。

内頸動脈・中大脳動脈閉塞の手術適応

手術適応

以下に示した条件を満たす症例が手術適応になります。本邦では、この条件を対象にした研究であるJET studyの結果、バイパス術は適応症例にだけ行うこととガイドラインに明記されています。一方、 2011年に発表された欧米のランダム化試験では、厳密な血流評価を行ってもバイパス手術は内科治療より脳梗塞発症リスクが高くなり、これを受け欧米では動脈硬化性の主幹動脈閉塞に対するバイパス術は行われていません(COSS study: JAMA 2011)。この違いは、主に両試験の手術合併症発生率の違いによります。本邦でも、この適応以外のバイパス術は治療として認められません。

手術適応:以下のすべてを満たす症例に限り行う

  1. 症状があること(TIAかminor stroke)
  2. 73歳以下
  3. 日常生活が自立
  4. 脳血流低下と脳循環予備脳低下があること

脳循環予備能

脳血管は血流低下が著しいと、代償作用として血管が拡張し血流を維持し脳梗塞を防ぐように働きます。脳循環予備能とは、この血管が拡張する能力です。予備能低下とは、血流低下が強く血管が限界まで拡張し代償作用が働かない状態で、これ以上の血流低下がおこると脳梗塞になります。評価にはSPECTかPET、cold xe CTの検査が必要です。

血管閉塞・狭窄による重度の血流低下は、細い抵抗血管を拡張させ、脳梗塞予防に働きます。この状態を予備能低下といいます。

血管が閉塞しても側副血行により予備能低下がないことが少なくありません。

予備能低下の証明

ダイアモックス注射により、正常脳の抵抗血管が拡張します。

予備脳低下部分の抵抗血管は、すでに拡張しこれ以上拡張しません。

血流は抵抗血管の拡張した正常部分に流れるため、予備能低下部分は更に血流が低下します。

もやもや病の手術適応

もやもや病では、脳虚血の場合と、脳出血の場合は、再発予防のためバイパス術の適応があります。 無症状でみつかった場合は、脳血流検査と脳血管造影の結果などで総合的に手術適応を判断します。

無症候性もやもや病の一般的な手術適応は、MRIで脳梗塞がある場合、脳血流検査で予備能低下がある場合、脳血管造影で順行性血流が遅い場合に行います。最近、線状体動脈や脈絡叢動脈拡張と脳出血の関係が注目されています。そのため、これらの血管拡張がある場合にもバイパス術の適応を検討します。

バイパス手術

内科的治療の進歩を示すものとして、大規模studyにおける無症候性内頚動脈中等度狭窄の1年間の脳梗塞出現率の変化があります。1993‐1995年の報告(VACS, ACAS, ECSTの3study)では2.3‐2.4%/年でしたが、2005‐2007年(ACSRS, ASED, SMART)では0.6‐1.3%/年に減少しています。

直接再建

浅側頭動脈ー中大脳動脈吻合術。

手術用顕微鏡を使い、10-0か11-0針を使って縫合します。通常は浅側頭動脈の2本の枝を吻合します。血管1本に要する縫合時間は20-30分以内です。

間接再建

もやもや病では、関節吻合を追加します。

側頭筋を脳表に置く(Encephalo-myo-synangiosis).

硬膜を硬膜下腔に入れる(Encephalo-duro-synangiosis).

最近のバイパス事情

動脈硬化性の主幹動脈閉塞は、脳卒中ガイドラインで厳格な適応が示されています。脳主幹動脈閉塞の患者さんは多数ご紹介いただきます。適応に従い検査をすすめますが、脳血流低下と予備脳低下がある症例は少なく、バイパス手術の適応がある方は1年間に1-2例くらいです。手術適応を守っている本邦の主要な脳神経外科施設は、どこも同様の現状です。抗血小板剤やコレステロール、血圧、血糖管理など内科的治療の発達により、厳重な内科的治療の成績が良好になり、神経内科との話し合いによる手術を含んだ治療方針決定が重要となります。

一方、もやもや病は、MRAの普及により発見されることが多く、手術も増えています。当院では、1月に1例くらいの割合で手術を行っています。もやもや病に対するバイパス術は、血管吻合の技術が必要なことはもちろんですが、術後の血流が流れすぎる過還流や、血流障害による脳梗塞の危険があり、手術期管理に習熟していることも重要です。

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