髄膜腫について

担当:野中 洋一(外来担当日 木曜)

髄膜腫とは

髄膜腫は良性脳腫瘍の代表で下垂体腺腫についでよくみられる腫瘍です。統計学上、全脳腫瘍の20-30%を占めます。小児には稀でほとんどは成人にみられます。中年以降の女性に多く、女性ホルモンとの関係があるとも言われています。脳ドックの普及でたまたま見つかることも増えてきました。

髄膜腫は脳腫瘍ではありますが、脳組織そのものから発生するわけではありません。脳組織そのものから発生する腫瘍を「脳実質性脳腫瘍」と呼ぶのに対して髄膜腫は「脳実質外性腫瘍」といいます。頭蓋骨の中で脳は「硬膜」とよばれる白くやや厚みのある膜に包まれています。この硬膜は同時に頭蓋骨を裏打ちしており頭蓋骨にピッタリとくっついています。脳はその硬膜の内側でさらに「クモ膜」にも包まれています。髄膜腫はこの「クモ膜の表層細胞」から発生し、徐々に内側に向かって(時には外側にも)成長していきます。その結果徐々に脳を圧迫していくこととなります。ある程度大きくなり、脳や神経を圧迫するまで症状がでることはありません。

髄膜腫は基本的に良性腫瘍ですので成長は非常にゆっくりです。そのため腫瘍に押された部分の脳も圧迫の程度に応じて変形はしますが、少しの圧迫では症状がでることはありません。従って、症状がみられだして見つかる場合にはある程度の大きさになっていることが多いといえます。しかし小さい腫瘍でも周囲に浮腫を来すことで、痙攣等をおこす原因となっている場合には早期にみつかることもあります(A)。ほとんどが良性腫瘍ですが、数%に悪性の経過をたどるもの(悪性髄膜腫)があります。

失語症で発症した左蝶形骨縁髄膜腫の症例。術前MRI(左2枚)では腫瘍周囲に強い浮腫(黄色三角)を認めていますが、腫瘍摘出後(右2枚)には浮腫は消失しました。

髄膜腫の診断

他の脳腫瘍と同様に頭部MRIが最も有用です。単純撮影だけでは髄膜腫と脳はほぼ同じような色調となりますので区別がつきにくく、小さいものであれば見逃してしまう可能性もあります。そのため髄膜腫が疑われた場合には「造影MRI」という撮影を追加で行います。造影MRIでは腫瘍だけが真っ白に染まりはっきりと映し出されます。専門医が見ればほとんどは一目で髄膜腫とわかりますが、中には他の腫瘍と区別が難しいものもあります。髄膜腫は頭蓋内のどこにでも発生します。そして発生部位によって症状、治療の難易度等が異なってきますので発生場所による分類がなされます。

髄膜腫の分類

1)発生場所による分類

脳腫瘍は一般的にその発生場所が決まっていたり、腫瘍の種類によって発生しやすい部位に傾向がみられたりしますが、髄膜腫は他の腫瘍と違い頭蓋内のどこにでも発生し得ます。

代表的なものとして「円蓋部髄膜腫」、「傍矢状洞髄膜腫」、「大脳鎌髄膜腫」、「蝶形骨縁髄膜腫」、「錐体斜台部髄膜腫」、「テント髄膜腫」、「小脳橋角部髄膜腫」、「大孔部髄膜腫」、「側脳室髄膜腫」などがあります。腫瘍の発生部位によって手術アプローチが大きく異なります。いずれも発生した部位に応じて呼び名がつけられています。これらの中で蝶形骨縁髄膜腫、錐体斜台部髄膜腫、テント髄膜腫、小脳橋角部髄膜腫、そして大孔部髄膜腫等は頭蓋底髄膜腫と呼ばれます。

2)組織学的分類

病理組織学的には10種類以上に分類されています。髄膜腫の約95%は組織学的良性脳腫瘍ですが、残りの数%の中には増殖スピードが速く、摘出術後に短期間で再発するような悪性髄膜腫も含まれます。

手術適応

脳ドックやたまたま行った検査で髄膜腫が見つかることも少なくはないです。たまたま見つかった、つまり症状のない髄膜腫(無症候性脳腫瘍)は基本的に経過観察を行います。腫瘍が見つかってから3-6ヶ月おきにMRIを撮影し増大傾向にあれば治療を考慮することになります。また症状がなくても脳への圧迫が強い場合、周辺の脳に浮腫がある場合には早期の治療を考えた方がいいと言えます。日本脳ドック学会から発行されている「脳ドックガイドライン2014」では無症候性髄膜腫のうち「蝶形骨縁髄膜腫-内側型」と呼ばれるものについては例外的に無症状でも予防的な手術を勧めることになっています(B)。それはこの部位に生じた髄膜腫が腫瘍の成長とともに近傍の「視神経」を圧迫することが多く、視力障害がみられてから手術を行っても視力回復が困難なことがあるからです。もちろん腫瘍に関連した症状がみられている場合には治療の適応となりますが部位よって手術難易度が異なります(C,D)。

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